AI時代の商品開発の思考の変化
商品は「モノ」じゃない。人の気持ちを動かす道を作る仕事
上手に作れることより、「何を作るか」が大事

商品を作るとき、多くの人がいきなり中身から考え始めます。どんな成分にしよう、どんな機能をつけよう、値段はいくらにしよう。でも、これは順番がまちがっています。
私が大事にしている考え方があります。「上手に作れること」より、「何を作るか」のほうがずっと大事だということです。今はAIが発達して、作る作業そのものはどんどん簡単になっています。だから「作れるから作る」では意味がありません。本当に価値があるのは「何を作るべきか」を見きわめる力のほうです。
これを商品作りに当てはめると、答えがはっきりします。商品を作るというのは、「モノ」を作る作業ではありません。それを買った人の生活の中に、その商品の「居場所」を作ってあげる作業なんです。
先日、UXデザインという考え方に触れて、「これは商品作りそのものだ」と思いました。UXとは「人の気持ちを動かす道を設計すること」だそうです。何かを使っていて「あ、これいいな」と感じる瞬間ってありますよね。あれは偶然じゃありません。誰かが、あなたがそう感じるように、先回りして作っているんです。
しかも、勝負が決まるのは、見た目を作り始めるよりずっと前。商品を手に取る前の、目に見えない場所なんです。今日はこの話を、商品作りの目線でまとめてみます。
順番が命──「暮らし」を先に考える

体験の設計には、大きく二つの面があります。一つは「暮らしの設計」。もう一つは「商品そのものの設計」です。
「暮らしの設計」とは、その商品が使われる「生活のようす」を考えることです。買ってくれる人は、どんな毎日の中で、どんな気分のときに、その商品と出会って使うのか。その周りのようす全部のことです。
ここをまちがえると、どんなに良い商品でも浮いてしまいます。「これを使えば健康になれる」「これを使えば時間が節約できる」と言っているのに、なぜか売れない商品があります。理由はかんたんです。商品の形が、その人の生活の形に合っていないからなんです。生活の中にうまくはまっていないんですね。
だからプロは、順番を守ります。まず「暮らし」を考えてから、商品の中身を作る。いきなり見た目や機能から作り始めると、だいたい失敗します。「誰のための、何なのか」がはっきりしないまま手を動かすと、現実からずれた商品ができてしまうからです。
気持ちを動かす「四つの段階」

では、「暮らしの設計」って、具体的に何をするのでしょう。むずかしく考えなくて大丈夫です。人が商品と関わるとき、だいたい四つの段階があります。
①知る ②手に取る ③使う ④何かが残る。
この四つを、たった一人の相手を思いうかべながら、紙に全部書き出します。これが最初の設計図になります。順番に見ていきましょう。
①どうやって知るか。どんなに良いものも、知られなければ始まりません。その人は、この商品をどうやって知るのでしょう。ネットで検索して? 友だちにすすめられて? お店で見かけて? まずは「知ってもらう入り口」を考えて、その入り口をどう広げるかを工夫します。
②どうやって手に取るか。「知る場所」と「買う場所」は、実はまったくちがいます。テレビのCMで知っても、買うのはお店かもしれないし、スマホかもしれません。家でゆっくり使うのか、移動中にちょっと使うのか。手に取り方が変われば、商品の形そのものも変わります。ここを想像することが、次の中身を決めるヒントになります。
③どうやって使うか。ここでやっと、商品の中身に入ります。使う人の中に、あまりくわしくない初心者もいるなら、わかりやすさが必要です。この段階では「だいたいこういうものが必要だよね」という大まかな線でOK。細かい色やボタンの位置は、まだ決めなくていいんです。
④何が残るか。使ったあと、その人に何が残ってほしいか。ここが一番大事です。「なるほどと気づいた」「モヤモヤが消えた」「ちょっとかしこくなった気がする」──よく見ると、これは全部「気持ち」の話なんです。①から③までの道は、この気持ちにたどり着くための道だったんですね。
最後にものを言うのは「どう感じたか」

商品作りでは、つい数字で語りたくなります。「性能が10%上がった」「値段が下がった」。もちろん大事です。でも、最後にものを言うのは、その人が「どう感じたか」なんです。いくら数字が良くなっても、使った人が「何も変わらないな」と感じたら、意味がありません。
人の気持ちが動いて、はじめて習慣が変わり、行動が変わります。これはどんな商品でも同じです。「もう一回買いたい」「友だちにすすめたい」という気持ちも、全部「良い体験だった」という感情のあとについてきます。だから順番を逆にしてはいけません。まず「どんな気持ちになってほしいか」を決めて、そこから道を逆算するんです。
これは美容の商品でも、車の安全を守る機器でも同じです。私は「モノ」を売っているのではなく、その業界がかかえている根っこの問題を、仕組みごと解決することを届けています。相手に最後に感じてほしいのは「この人は、私の困りごとを本気で引き受けてくれた」という安心です。その気持ちにたどり着く道を、四つの段階で設計します。
人がやるべきは「手前の九割」

ここまで、私は一度も細かい仕様を描いていません。それでいいんです。実際の見た目や細かい部分を作る作業は、商品作り全体のうち、せいぜい一割くらい。しかもその一割は、今やAIがかなりやってくれる時代です。
だからこそ、人がやるべきなのは、手前の九割のほうです。誰のために、何を作るのか。それをどう、その人の生活の中にはめこむのか。そして、期待した気持ちの道をちゃんと通って、期待した結果にたどり着くのか。ここを人がしっかり考えないと、あとの作業が全部むだになります。「なんか違うな」というものができてしまうんです。
その九割の土台にあるのは、「共感」です。届けたい相手を、たった一人でいいので、はっきり思いうかべる。その人のことを深く想像する。私自身、若いころ、就職がとてもきびしい時代に苦労しました。だから、あのころの自分と同じ不安をかかえている人を助けたい、その一点から仕事を始めました。相手への思いやりを一点にしぼって作ったものは、不思議と必ず、誰かの心にひびきます。これが商品作りの本当の中心だと思います。
商品を作るとは、見た目や成分を作ることではありません。誰かの生活の中に居場所を作り、「あ、これいいな」と感じるその瞬間を、先回りして用意することです。
あなたが本当に役に立ちたい相手を、一人だけ思いうかべてみてください。その人のために「知る・手に取る・使う・何かが残る」の四つを書き出してみる。きっと、今まで気づかなかった答えが見つかります。
土台はいつだって同じ。誰の、どんな気持ちを動かしたいのか。 すべてはそこから始まります。