上司AIが複数の候補AIを面接し、人が方針を示すイメージ
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AIが、AIを面接する

いま、新しいAIは月に何度も発表される。「前のより賢くなりました」「前のより安くなりました」というニュースが、次から次へと流れてくる。

これを全部追いかけるのは、正直しんどい。性能を比べた表を眺めて、乗り換えたほうがいいのかなと考えて、決めきれないうちに次の新しいAIが出る。そしてまた比べ直す。この繰り返しに疲れて、結局ずっと同じAIを使い続けている人は多い。

ところが最近、面白い解決策が出てきた。

AIを選ぶ仕事そのものを、AIにやらせる。

しかも、ただ「どれがいい?」と聞くのではない。AIが他のAIを面接して、採用するかどうかを決めるのだ。

乗り換えを阻むのは、AIの性能ではなく「引き継ぎ」

次々に現れるAIと、引き継ぐ知識の重さ

まず、多くの人が新しいAIに乗り換えられない本当の理由を考えてみたい。

それは「知らないから」ではない。安くて性能のいいAIが出ていることは、みんな知っている。止めているのは別のものだ。引き継ぎの手間である。

たとえば、あなたが半年かけて一つのAIを育ててきたとする。自分の書き方の好み、よく使う言い回し、絶対に守ってほしいルール。そういうものを少しずつ教えてきた。その積み重ねは、全部その一つのAIの中にある。

別のAIに乗り換えるということは、この半年分をゼロから教え直すということだ。新しいAIがどれだけ賢くても、その作業量を思い浮かべた瞬間に手が止まる。

これは、会社で人が辞めるときと同じ構造だ。新しく入った人がどれだけ優秀でも、引き継ぎには時間がかかる。優秀さと、引き継ぎのしやすさは、別の話なのだ。

正社員の「上司AI」と、その日だけ来る「部下AI」

知識を蓄えた上司AIと、仕事ごとに集まる専門AI

ここで、発想を逆にする。

教え直さなければいい。

半年分の事情を知っているAIは、そのまま動かさない。ずっとそこにいてもらう。そして新しいAIには、事情を一切教えない。渡すのは「今回のこの仕事の内容」だけにする。

会社に置き換えると、こういうことだ。

半年分の社内事情を知っているAIは、正社員にあたる。この正社員に、管理職になってもらう。

外から来る新しいAIは、その日だけ来てもらう外部のスタッフだ。腕は確かだが、この会社のことは何も知らない。でも、それでいい。会社の歴史を全部説明する必要はない。今日やってほしい仕事の内容さえ伝われば、仕事はできる。

この配置にした瞬間、「乗り換え」という作業が消える。新しいAIが出ても、誰も引っ越さなくていい。管理職のAIが、新しく来た人を使うかどうか判断するだけだ。

ここでは、管理職になったAIを上司AI、外から呼ばれるAIを部下AIと呼ぶことにする。

AI面接は、同じ仕事を同じ条件で解かせる

同じ課題に取り組む候補AIと、答案を比べる上司AI

では、上司AIはどうやって部下AIを選ぶのか。

やり方はとてもシンプルだ。同じ課題を、候補の全員に同時に出す。

条件も資料も全部同じにして、3体でも4体でも一斉に解かせる。答案が返ってきたら、上司AIがそれを読み比べて、点数をつける。

ここに大事なルールが一つある。候補者に自己採点をさせない。

「私の答案、よく書けていると思います」という自己申告は、一切聞かない。判定するのは上司だけだ。これは人の面接でも同じで、自分で自分に合格を出せる面接には意味がない。

そして採用は、その仕事一件だけ。次の仕事では、また最初から面接をやり直す。

この方式には、地味だが大きな利点がある。ネットの評判を読む代わりに、実際に解かせた答案を読めることだ。口コミを100件読むより、一度働いてもらったほうが早い。当たり前のことだが、AIの世界ではこれが最近までできなかった。

OpenRouterとMCPがつくった「AIの採用市場」

多様なAIと仕事道具を一つの接続口でつなぐ仕組み

この仕組みが動くようになったのは、二つの技術がそろったからだ。

OpenRouter ── AIの人材市場

一つ目が OpenRouter というサービスだ。

普通、AIを使うにはそれぞれの会社と個別に契約する。A社のAIを使いたければA社と、B社のAIならB社と。面倒だし、増えるほど管理しきれなくなる。

OpenRouterは、この面倒をまとめて引き受けてくれる。一つの契約で400以上のAIを呼び出せる、AIの市場のような場所だ。

さらに便利なのが、それぞれのAIについて「いくらかかるか」「どれくらい賢いか」「どんな仕事が得意か」というデータが揃っていること。人材紹介会社が候補者の情報を持っているのに近い。上司AIはこのデータを見て、候補を3〜4体に絞り込む。

料金は使った分だけ。しかも驚くほど安い。ある人の実測では、面接で不合格にした3体分の費用の合計が、日本円で1円に満たなかった。仕事のたびに面接をしても、家計簿には載らないレベルだ。

MCP ── AIと道具をつなぐ共通の差込口

二つ目が MCP という規格だ。Model Context Protocolの略で、日本語にすると「AIと外の道具をつなぐための共通の決まりごと」になる。

イメージしやすいのは USB-C だ。

昔は、機械ごとに充電ケーブルの形が違った。スマホ、カメラ、ゲーム機。それぞれ専用のケーブルが必要で、家の中がケーブルだらけになった。USB-Cという共通の形が決まったことで、一本で全部つながるようになった。

MCPは、それのAI版だ。この規格に合わせて作っておけば、どのAIからでもその道具が使える。

そしてOpenRouterがこのMCPに対応したことで、上司AIが自分の判断で、直接ほかのAIを呼び出せるようになった。ここが決定的だった。人間が間に立って「このAIに投げて」と指示しなくてよくなったのだ。

安全は「事故の上限」を先に決めること

鍵・期限・金額で被害の上限を決めたAI実験

知らないAIを次々に試すのは、危なくないのか。

ここには工夫がある。試す前に、失敗したときの被害の上限を決めてしまうのだ。

  • この用途だけの専用の鍵を作る。他の場所とは無関係にしておく
  • 鍵は7日で自動的に使えなくなる。消し忘れという事故が起きない
  • 使える金額の上限を、はじめから10ドルに固定しておく

こうしておけば、最悪の事態が起きても、失うのは10ドルと使い捨ての鍵だけで終わる。

上限が決まっているから、思い切って試せる。 これは大事な考え方だ。安全とは、危ないことを一切しないことではない。危ないことをしても大丈夫な範囲を、先に決めておくことだ。

「一番いいAI」ではなく、選ぶ基準を持つ

人が方角を決め、仕事ごとに最適なAIを選ぶ

実際に運用してみて、いちばん意外だったのはこれだという。

「いま一番いいAI」というものが、そもそも存在しない。

同じ週に、同じAIが、文章を書く面接では合格したのに、プログラムを書く面接では不合格になった。得意分野が違うのだから、当然といえば当然だ。

これは、AIの世界で一番よく聞かれる質問への答えでもある。「結局どのAIが一番強いんですか?」という問いには、正解がない。仕事の種類ごとに順位が違い、しかもその順位は新しいAIが出るたびに入れ替わる。

だから、一度覚えて終わりにはできない。選ぶ作業は毎回発生する。毎回発生するからこそ、それをAIに任せる意味がある。

この話から持ち帰ってほしいことが二つある。

一つ目。道具の名前を覚えることと、道具を選べることは、別の能力だ。

新しいAIの名前を100個覚えている人より、「この仕事にはどういう基準で選べばいいか」を言葉にできる人のほうが、強い。前者は3か月で古くなるが、後者は古くならない。

二つ目。判断を手放してはいけない。

この仕組みでも、いちばん大事な部分は人間が握っている。「今回は安さを優先」「今回は品質を優先」という方針を決めるのは人間だ。上司AIはその方針にしたがって動いているだけで、方針そのものは作れない。

AIに任せるのは、面倒な作業のほうだ。何を大事にするかを決める部分は、渡さない。

AIが強くなるほど、人間に残る仕事は減っていく。でも、最後まで残るのは選ぶこと決めることだ。そしてそれは、いまのあなたにも練習できる。

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